早十昊平のボーカルコーチング_035
今日取り上げる曲は
HYの
『いちばん近くに』
です。
今日は、言葉(歌詞)の分断、
という話です。
Aメロに注目して聞いて下さい。
(0:49〜)
『ねぇ初めて出会った日の事
あなたは覚えてる?
言葉すら交わしてないのに
何故かあなたを近くに感じた』
何カ所か、
抑揚の付け方に違和感があります。
沖縄のアーティストさんなのが、
関係しているのでしょうか?
ちょっと分解してみます。
『ねぇ初めて出会った日の事』
ここは、まだ良いと思うのですが、
2行目の
『あなたは覚えてる?』
の『お』が聞き取りづらく、
『ぼ』が強いですね。
歌詞カードを見ずに
さらっと聴いた時、
『ぼーえてるー』
と聞こえ、
「ん?」と感じる可能性が高いです。
3行目の
『言葉すら交わしてないのに』
ここも少し違和感を覚えます。
歌を聴いてみると、
『言葉』という単語が、
『こと』と『ば』に分かれています。
『交わしてない』の部分も、
『な』に強いアクセントが来ているので
『交わして』と『ない』が分断されてます。
『ことば』の部分は、
多少分断されたとしても、
『こと』に続く単語や文章が、
ある程度限られているので
大丈夫かもしれません。
言語的な予測が成り立ちます。
ただ、
『交わして』 と 『ない』を
分けてしまうのは、
聴き手には優しくないですね。
「交わして」 のあとに
「、(句読点)」を打てば
続く文章は無限に存在出来ますね。
ということは、聴き手は
一瞬ですが次の言葉を待ちます。
(ほんの一瞬ですよ)
『交わしてない』
という歌詞を伝える場合には
得策でないように思えます。
ここは、『な』を強くするのではなく、
もう少しだけ、スムーズに聞こえる
工夫があった方が良かったかもしれません。
4行目の、
『なぜか』の『か』の母音と
次の『あなた』の『あ』を繋げているのも、
正直好きではありません。
『何故かあなたを近くに感じた』
この一文での主役は『あなた』では
ないでしょうか。
言葉としての『あなた』を
もう少し立てた歌い方を
考えたいですね。
(強くするとかではないですよ)
このように
歌詞を分断する歌い方をだと、、
歌い手側の意識として、
「みんな私達の歌の歌詞、知ってるよね」
という前提があるように
感じてしまいます。
誤解を恐れずにもっと言ってしまうと、
「わたし、歌上手いでしょう?」
と、
音楽ではなく歌唱力を聴かせたいのかな…?
とも思ってしまいます。
ファンは、それでいいでしょうが、
新規顧客獲得は
少し難しいかもしれませんね。
アーティストとの距離が、
遠くなるというか、
気持ち的に“引く”というか、
そんな気がしてしまいます。
雰囲気で歌うのも悪くはありませんが、
このような歌詞を伝えたい曲を
歌うときには、
聴き手にやさしく歌って欲しいですね。
それで初めて、
その曲やアーティストを
好きになってもらえるかどうかの
スタートラインに立てるような気がします。
最後に断っておきますが、
例えばバラードではなくノリノリの曲で、
歌詞を伝えることよりも
音楽の勢いとか心地よさとかを
重視するというのならば、
今日の話は全部ナシで良いんです!
外国語の歌を楽しむときも、
今日の話は関係ないですからね^^
歌詞を伝えたいときに
参考にしてください!
ではまた!
このブログは、録音エンジニアで音響家の早十昊平が、人様の歌に好き勝手にケチをつける、、、じゃなかった、プロの歌録音の現場で日々行っているディレクションをもとに音楽を分析したものです。題材として取り上げている音楽やアーティストには敬意はありますが敵意はありません!むしろ好きです!!