音響の仕事

音響の仕事をして、
かれこれ20年以上になりますが、

長くやってる人だけが当たる
カベがあります。

それは、

 
一般の観客や視聴者が楽しむ為の音と
作曲家、編曲家、音に造詣のある方々に
評価される音の違い

です。

 
それがイコールの時は
目指すべきところが明確なので
それに向かって突き進めばいいのですが、
そうでないときは葛藤が色々とあります。

 
その昔、音楽CDだけを作っていた頃は、
そこに差は無いものとして
考えることが出来ました。

プロデューサー、ディレクター、
アーティストの意見を取り入れつつ
落としどころを探す、

というやり方で良かったのです。

 
しかし現在、
舞台や映像の音作りもやるようになって、
そうでない事の方が多くなりました。

 
つまり、

オーディオ作品ではなく、
“作品の中のオーディオ”を
考えなければならなくなりました。

 
受け手が「音」を楽しむ場合の音と、
受け手が「場」を楽しむ為の音、
この違いとでも言えば
良いでしょうか。

それらはオーディオマニアのための
音であるはずはなく、
最高級スピーカの真正面で
聴くための音でもないのです。

 
例えば、
映画や舞台などで作品を観ている間は、
音は脇役で居ることの方が多くなります。

それは、

一見すると(一聴ですか?)
どうでもいいようなもの、
と思われる時もありますし、

主役(=視覚でとらえているもの)の為の
絶対的なフォロー、
つまり主役の一部になるときもあります。

 
今、この場面のこの音は、

脇役か主役か?

その為にはどのくらいの音量、音圧で、

どんな音質にするか?

聴覚をどの程度刺激するか?

 
常に考えながら作り上げていきます。

 
あくまでも一般の視聴者の方を
中心に考えるので、

“聴覚を中心に観ている人”

つまり作曲家さんなどとは
意見の相違が出てきます。

「音を主役にしろ!」

と言われても、、、

 
でも、正直な話、

音の事を忘れていてほしい
場面の方が多いです。

観ているものに夢中になり
感動できるよう差し向けるのが
音屋の責務です。。

 
たかが台詞、
たかがBGM、
と思うなかれ。

その音量、音質、タイミングで
次の場面へ影響するし、
意図的に影響させることも出来るのです。

 
それには技術的な知識もさることながら、
音響心理学や脳科学についても
ある程度知っておく必要があります。

意図的に、人の無意識の側、
つまり使っていない五感へ
アプローチをする方法を知っていれば、
その影響は大きなものとなります。

この場合は視覚と聴覚の関係性を
よく考えて構築していきます。

舞台であれば演者の動きや、
照明、セットの雰囲気、
それらの要素から
最適解を導き出す作業です。

 
正解はひとつではないのです。

 
いや、無数にあると言っていいですね。

 
では、何でも良いのかというと
そうではなく
困ったことに“不正解”もあります。

 
 
音響家は「一人前になるまで15年」と
言われる職種です。

年々、音響機材は簡略化、簡素化され、
覚えることも昔に比べれば
容易になってきています。

独り立ちするまでの期間も
短くなっているようです。

しかしながら、
本当の意味で一人前になるには、
それ以外の部分が
大きなファクターとなっています。

 
そこにどれだけ邁進できるか。

 
それを念頭に置いて
経験を重ねていく以外に、
さらなる成長は無さそうです。

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